「社会保険給付金」と失業保険の違い|その名前の公的制度は存在しません
「退職者は社会保険給付金がもらえます」「失業保険とは別の給付金です」——SNSや広告でこんな言葉を見て、「失業保険と何が違うの?」と検索していませんか。
先に、いちばん大事な事実からお伝えします。「社会保険給付金」という名前の公的制度は存在しません。
この言葉は、主に有料の「給付金サポート業者」が使っている呼び方で、その正体は傷病手当金(健康保険)と失業手当(雇用保険)という、昔からある2つの公的制度です。つまり「失業保険とは別の、知られていない給付金」ではありません。
この記事では、2つの制度の違い、同時にもらえない理由、そして「社会保険給付金」という言葉を使う広告に出会ったときの見分け方を整理します。
この記事は2026年8月時点の一般的な情報です。制度の詳細は加入先の健康保険・ハローワーク等でご確認ください。
結論:「社会保険給付金」は正式な制度名ではない。正体は既存の2制度

厚生労働省や健康保険のどの公式資料を探しても、「社会保険給付金」という給付制度は出てきません。この言葉は、多くの場合「退職サポート」「給付金サポート」をうたう民間業者の広告で、傷病手当金や失業手当などをまとめた呼称として使われています。
業者が「社会保険給付金」と呼んでいるものを分解すると、こうなります。
- 傷病手当金:健康保険の制度。病気やケガで働けない人の生活を支える
- 失業手当(雇用保険の基本手当):雇用保険の制度。働ける状態で仕事を探している人を支える
どちらも条件を満たせば自分で無料で申請できる、ごく普通の公的制度です。「知る人ぞ知る特別な給付金」という演出は、正確ではありません。
2つの制度はここが違う:比較表

| 傷病手当金 | 失業手当(基本手当) | |
|---|---|---|
| 制度の種類 | 健康保険 | 雇用保険 |
| もらえる人の状態 | 病気・ケガで働けない | 働ける状態で、求職活動をしている |
| 金額の目安 | 給与のおよそ3分の2 | 退職前賃金のおよそ50〜80% |
| 期間 | 支給開始から通算1年6か月まで | 90〜330日(離職理由・年齢・加入期間による。就職困難者はより長い場合あり) |
| 窓口 | 加入していた健康保険(協会けんぽ・健保組合) | ハローワーク |
| 退職後も受け取れる? | 条件を満たせば継続給付あり(退職日までに継続1年以上の加入等) | 退職後に申請するのが基本 |
ポイントは、「もらえる人の状態」が正反対なことです。片方は「働けない人」のための制度、もう片方は「働ける人」のための制度。ここが次の話につながります。
同時にはもらえない。「順番に」なら制度上あり得る

「2つ合わせて◯か月分!」という宣伝を見ると、同時にもらえるように聞こえますが、同時受給はできません。「働けない」(傷病手当金の要件)と「働ける」(失業手当の要件)は、同時には成立しないからです。
制度上あり得るのは、順番に受け取る流れです。
- 病気やケガで働けない間:傷病手当金(退職後も継続給付の条件を満たす場合)
- その間、失業手当は受給期間の延長を届け出て、権利をキープしておく
- 回復して「働ける状態」になったら:失業手当に切り替えて求職活動
この「傷病手当金→失業手当」の連結こそが、業者が「最大◯か月」と宣伝している仕組みの正体です。ただし、全条件を満たす人は限られ、金額も期間も人によってまったく違います。「最大28か月」といった宣伝の検証は、こちらの記事で詳しくやっています。

「サポート業者」の広告を見分ける3つのチェック

「社会保険給付金」という言葉を使う広告に出会ったら、次の3点を確認してください。
① 料金を確認する
業者のサポート料金は、受給見込み額の10〜15%程度の成功報酬が相場とされ、数十万円になることもあります。一方、自分で申請すれば無料です。申請書の書き方は健康保険とハローワークの窓口で教えてもらえます。
② 「誰でも」「必ず」と言っていないか
傷病手当金は医師が労務不能と判断することが大前提です。「働けるけど辞めたい人」がもらえる制度ではありません。「誰でも対象」「面談だけで受給」のような表現は、制度の実態と合いません。
③ 不正受給の責任は誰が負うかを考える
実態と異なる申請が不正受給と判断された場合、返還や処分の対象になるのは業者ではなく、申請した本人です。雇用保険の不正受給には、返還に加えて最大で受給額の2倍の納付(いわゆる3倍返し)が命じられることがあります。国も同種のサポート商法について注意喚起を行っています。
「自分が対象になるか知りたい」だけなら、お金を払う前に公的窓口で聞くのが安全で確実です。
自分で(無料で)確認・申請する方法

やることはシンプルです。
体調が理由で働けない・辞めたい場合:
- まず受診して、働ける状態かどうか医師に相談する
- 働けない状態なら、在職中に傷病手当金の申請を始める(退職後の継続給付は「退職日までに継続1年以上の加入」などの条件があるため、辞める前に確認)
- 加入先の健康保険(協会けんぽ・健保組合)に申請方法を聞く
働ける状態で辞める場合:
- 退職後、離職票を受け取る
- ハローワークで求職申込みと失業手当の申請
- 病気で求職活動ができない期間があるなら、受給期間の延長を忘れずに届け出る
傷病手当金の条件・金額・期間の詳細はこちら。

失業手当の申請手順の全体像はこちらで確認できます。

よくある質問

「社会保険給付金」で検索して出てくる制度は嘘なのですか?
嘘というより、傷病手当金と失業手当という実在の制度を、業者がまとめてそう呼んでいるものです。制度自体は本物ですが、「失業保険とは別の特別な給付金」という印象を与える見せ方には注意が必要です。
傷病手当金と失業手当、どちらを先に申請すべきですか?
状態で決まります。働けない状態なら傷病手当金(失業手当は受給期間延長を届け出)、働ける状態なら失業手当です。自分で選ぶものではなく、医師の判断と実態に沿って決まる、と考えてください。
サポート業者を使うと受給額が増えますか?
給付額は法律と本人の給与・加入状況で決まるため、業者を使っても増えません。業者ができるのは手続きの代行・助言であり、同じ内容は公的窓口で無料で確認できます。
退職してから傷病手当金を申請できますか?
退職後の継続給付には、退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があること、退職時点で傷病手当金を受けているか受けられる状態だったこと、などの条件があります。退職してから初めて申請を考えるのでは間に合わない場合があるため、体調に不安があるなら在職中に加入先の健康保険へ確認してください。
広告の「最大28か月」は本当ですか?
広告でいう「最大28か月」は、多くの場合、傷病手当金の通算1年6か月と、45歳未満の就職困難者に設定される失業手当300日を単純に合計した表現です。通常の自己都合退職者が一律に28か月受給できるという意味ではありません。詳しくは検証記事(上記リンク)をご覧ください。
まとめ
- 「社会保険給付金」は健康保険・雇用保険にある正式な制度名ではない。正体は傷病手当金+失業手当の組み合わせ
- 2つは「働けない人」と「働ける人」の制度で、同時にはもらえない。順番に受け取る流れが制度上あり得るだけ
- どちらも自分で無料で申請できる。業者のサポート料金は成功報酬10〜15%程度が相場とされる
- 「誰でも」「必ず」「面談だけで」の広告表現は制度の実態と合わない。不正受給の責任は本人が負う
- 体調に不安があるなら、業者より先に受診と加入先健康保険への確認。働けるならハローワークへ
「知らない給付金があるのかも」という不安につけ込む言葉に、お金を払う必要はありません。制度は昔からそこにあり、窓口はいつでも無料です。正しい名前で、正しい場所に聞きに行きましょう。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報です。支給要件・金額・期間は個別の状況により異なります。正確な内容は加入先の健康保険・ハローワーク・市区町村等の公的窓口でご確認ください。
