退職金がないのは違法?もらえない・振り込まれないときの対処法と請求手順
「うちの会社、退職金がないらしい」「辞めたのに退職金が振り込まれない」——どちらもよくある相談ですが、この2つは法的にまったく別の話です。
- そもそも制度がない → 原則として違法ではありません
- 規程や契約で支給が約束されているのに払われない → 賃金の未払いと同様に、請求できます
この記事では、合法と違法の境界線、もらえないケース別の対処法、実際の請求手順(証拠集め→内容証明→労基署・弁護士)まで解説します。
この記事は2026年8月時点の一般的な情報です。個別のトラブルは労働基準監督署・弁護士等にご相談ください。
「退職金なし」は違法ではない:まず境界線を知る

すべての会社に退職金制度を義務づける法律はありません。退職金は、就業規則・退職金規程、労働協約、個別の労働契約、あるいは労使慣行などが支給の根拠になっている場合に、その定めに従って支払義務が生じるお金です。
合法(請求できない):
- 就業規則・退職金規程に退職金の定めがなく、雇用契約書にも記載がない
- 「退職金は支給しない」と明記されている
違法・請求できる可能性(払わないのは契約違反):
- 退職金規程があるのに支払われない
- 雇用契約書・労働条件通知書に「退職金あり」と書かれている
- 求人票に「退職金制度あり」と記載され、それを前提に入社した(求人票だけでは弱いものの、他の事情と合わせて契約内容と認められる場合があります)
- 中退共に加入している(会社の意思と関係なく、請求すれば中退共から支払われます)
- 慣行として全退職者に支払われてきた実績がある(立証は難しめですが、争える場合があります)
まず自分がどちら側かを確定させましょう。確認する書類は、就業規則(退職金規程)・雇用契約書・労働条件通知書・求人票の控えの4つです。就業規則の閲覧を会社が拒むこと自体、労基法違反の問題になります。
ケース別:もらえない理由と対処法

①「勤続3年未満だから」と言われた
規程で「勤続3年以上に支給」と定めていれば適法です。規程の支給条件を確認してください。中退共の場合は納付12か月以上なら支給対象です(相場と支給条件はこちら)。
②「自己都合だから減額・ゼロ」と言われた
自己都合の減額自体は、規程どおりなら適法です。ただし「自己都合はゼロ」という極端な規程や、実質は退職勧奨・ハラスメントによる退職なのに自己都合扱いされている場合は争う余地があります。
③「懲戒解雇だから不支給」と言われた
規程に不支給条項があっても、裁判例は「長年の功労を打ち消すほどの重大な背信行為」がある場合に限って全額不支給を認める傾向です。一部支給が認められた例も多く、あきらめる前に弁護士へ。
④「経営が苦しいから払えない」と言われた
支払義務は消えません。分割払いの合意に応じるかはあなたの自由です。要件を満たす倒産の場合は、未払賃金立替払制度(労働者健康安全機構)で、退職日の6か月前〜立替払請求日前日に支払期日が到来した定期賃金・退職金の80%が立て替えられる場合があります(賞与は対象外。上限は退職時の年齢により88万〜296万円。未払総額2万円未満は対象外)。
⑤支払時期を過ぎても振り込まれない
規程の支払時期(退職後1〜2か月が一般的)を確認し、過ぎていたら催促を開始します(次章)。中退共加入なら、会社を通さず自分で中退共に請求します。請求書類は会社から受け取るか、中退共へ問い合わせを。
請求の手順:証拠→催促→内容証明→外部機関

ステップ1:証拠を揃える
- 退職金規程(就業規則)のコピーまたは写真
- 雇用契約書・労働条件通知書・求人票の控え
- 給与明細(基本給の確認用)、在籍期間が分かるもの
- 過去の退職者が受け取っていた事実(分かれば)
ステップ2:会社に書面で請求
メールで「退職金規程第◯条に基づき、退職金の支払時期と金額をご回答ください」と送ります。口頭より書面。回答期限を1〜2週間で区切るのがポイントです。
ステップ3:内容証明郵便で正式請求
無視されたら、配達証明付き内容証明で請求します。退職金の請求権の時効は原則、支払期日から5年です。内容証明による催告は、要件を満たせば時効の完成を原則6か月猶予させますが、それだけで時効が更新されるわけではありません。時効が迫っている場合は、その6か月の間に訴訟・労働審判等の手続きが必要になるため、早めに弁護士へ相談してください。
ステップ4:外部機関へ
- 労働基準監督署:規程に基づく退職金は労基法上の「賃金」にあたり、不払いは申告の対象になります
- 労働局のあっせん・労働審判:金額に争いがある場合の比較的速い解決手段
- 弁護士:金額が大きい場合や懲戒不支給を争う場合。初回無料相談や法テラスの利用も
「退職金なしの会社」で働く人の自衛策

制度がない会社が違法でない以上、自分で退職金を作るのが現実解です。
- iDeCo(個人型確定拠出年金):掛金が全額所得控除。受取時も退職所得控除が使える、実質「自作退職金」の第一候補
- NISA:流動性を確保しつつ積み立てたい人向け
- 転職時の条件確認:次の会社では、雇用契約書で「退職金制度の有無」「確定拠出年金の有無」を必ず確認。求人票の「退職金あり」は面接で規程の内容まで聞いてOKです
- 給与への上乗せ交渉:「退職金なしのぶん月給・賞与が高いか」で総報酬を比較する視点を持つ
なお、「退職金なし」は老後資金だけでなく、退職直後の生活資金のクッションがないことも意味します。辞める前の資金計画はこちら:貯金なしで退職しても大丈夫?
よくある質問

求人票に「退職金あり」とありましたが、入社後「うちにはない」と言われました
求人票の記載が直ちに契約内容になるとは限りませんが、採用時に条件変更が適切に明示・合意されていなければ、求人票の条件が契約内容と判断される場合があります。また、募集時の条件を変更・削除するときは、その内容を求職者に明示する必要があります(職業安定法)。求人票の控え・採用時の説明資料・労働条件通知書を保存して、ハローワークまたは労働局へ相談してください。
退職金の請求に時効はありますか?
あります。退職金の請求権の時効は、支払時期から5年です。ただし証拠は時間とともに散逸するので、早く動くほど有利です。
会社が就業規則を見せてくれません
常時10人以上の労働者がいる事業場では就業規則の作成・届出義務があり、労働者への周知義務もあります。見せないこと自体が労基法違反の問題です。労基署に「就業規則の閲覧を拒否されている」と相談すれば、指導の対象になり得ます。
パートですが「パートに退職金はない」と言われました
規程が正社員のみを対象としている場合、原則その通りですが、規程を確認する権利はあります。中退共はパートも加入対象なので、加入の有無も確認を。
未払いのまま会社が倒産しました
未払賃金立替払制度の対象になる場合があります(対象期間内に支払期日が来た定期賃金・退職金の80%。年齢別上限88万〜296万円、賞与は対象外)。破産手続きの情報とあわせて、労働基準監督署または労働者健康安全機構に相談してください。
まとめ
- 制度がない=合法、約束があるのに払わない=請求できる。まずどちらかを4つの書類(規程・契約書・通知書・求人票)で確定
- 懲戒解雇でも全額不支給が認められるのは例外的。あきらめる前に相談を
- 請求は証拠→書面請求→内容証明→労基署・労働審判・弁護士の順。時効は5年
- 倒産時は未払賃金立替払制度で8割まで立て替えの可能性
- 制度なしの会社ではiDeCo等で自作退職金+転職時の条件確認を習慣に
退職金は「もらえたらラッキーなお金」ではなく、約束があるなら賃金と同じ「労働の対価」です。書類を確認して、権利があるなら淡々と請求する——それだけの話です。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報です。個別のトラブルは労働基準監督署、労働局の総合労働相談コーナー、弁護士等にご相談ください。
